器用貧乏の裕福な生活

割と幸せです

「ペコロスの母に会いに行く」を読んで

ペコロスの母に会いに行く

ペコロスの母に会いに行く

"62歳の漫画家が描く、認知症の母との可笑しくも切ない日々"

妻に勧められて、一気に読み終わった。どこか西原理恵子を思わせる太い線が特徴的な優しいタッチの4コマ漫画と、フリーライターでもある著者のエッセイという形式で、著者のペコロスさんと母のみつえさんの生活が描かれている。

第一章はみつえさんの"ボケ"をほのぼのとコミカルな調子で描いているが、章が進んで行くに連れて、記憶障害によって昔に戻ったみつえさんの辛い記憶、そして幻覚が生み出す亡き父とのやり取りから思い出す過去の体験の話が中心に。天草での貧しい子供時代から、酒乱の夫との生活、つばなれ出来なかった子、そして被爆体験。壮絶な人生史のような作品になっている。

認知症という少なからず実体験のあるテーマで、作中の誰にか分からないが徐々に感情移入し、最後の「背中の児」という話で涙腺が崩壊。妻も同じ話で泣いたと聞いたが、先日1歳になったばかりの娘を持つ親にとっては涙を堪えられるような話では無かった。

本とは関係なくなるが、自分自身にとって認知症との関わりは、父方の祖父母とだった。小学校高学年の頃に、脳梗塞で倒れたのを機に認知症が始まった祖父と一緒に暮らすようになり、その後少しだけリウマチで寝たきりの祖母とも生活した。祖母も認知症だった。

祖父は合わせて肺気腫も患っていて、鼻に管を通しているのにも関わらず煙草を吸っていたし、歩けるうちはヨボヨボ歩いて散髪にも出かけていた。三ツ矢サイダーが好きでたまに買いに行かされたのを覚えている。

祖父母とも認知症の症状は記憶障害ぐらいで、祖父は半身不随、祖母は寝たきりということもあり、徘徊したり暴れたりせず、認知症の介護という意味ではそれほど大変な方では無かったが、トイレで動けなくなった祖父をベッドに戻したら親父の名前でお礼を言われたりというような話は日常で、当時もよく笑い話にしていた。

とは言っても、十年弱の間、認知症で半身不随の祖父と寝たきりの祖母を介護していた両親、特に親父の苦労はかなり大変で、二人ともが入院してからは、もう家族みんなが死を待っていた。

祖父母は、僕が大学生の頃に続けて亡くなった。
集まる親戚が泣いている中、家族は誰も泣かなかった。

近い将来、著者や親父と同じ境遇になるかもしれない。その時はみつえさんとのように過ごせるだろうか。