共食い
芥川賞受賞会見の記事を読んで言葉の選び方が好みだと思った。
都知事閣下と都民各位
、それはほんとうの嘘です
、ギャラが出るんで
冒頭の都知事閣下の下りは事前に考えてきたそうだが、そのことがまたなお良かった。特に、故郷であり作品の舞台でもある下関の町の印象を尋ねられて 非常に乾(渇)いた町です
と即答したのが最高だった。
括弧付きで"渇いた町"としたのは、恐らく本作を未読のまま会見に臨んだ記者が文字におこした際に迷いもなく変換候補に出てきた文字を選んだ結果"乾いた町"となっただけで、本作を読んでからだと"渇いた町"とも答えたのではないかと思えるからだ。
物語は何か目新しさがあるわけでも無いが、会話が多いため、引っかかることなく読み進められる。性と暴力とを題材にしているにもかかわらず、恨みや執拗さに乏しいからか、川辺の町なのに、土砂降りの場面ですら湿っぽくならない。最後に血で湿るまで、乾いた町での、欲への渇きだけが描かれているような文章だった。
思ったよりも物足りず深く沈めてくれなかったが、すぐにでも読み返したくなる。
そういえば昨年も芥川賞の受賞会見か何かを見て西村賢太の「苦役列車」を読んだんだった。これも、渇きを湿っぽくならずに語っていたが、自分を重ねすぎて勝手に鬱々としてしまい、読み返すこともなく古本屋に売っぱらった。多分、もう一度読んでも同じ事をしそうだな。そんな本のほうが好きだけど。